令和7年度入学式 学長告辞
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令和7年度入学式 学長告辞

令和7年4月7日、本学アトリウムを会場に「令和7年度釧路公立大学入学式」が執り行われました。
以下、本学学長の告辞文を掲載いたします。
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新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。また、新入生のご家族や関係者の皆様に対して、釧路公立大学教職員の代表者の一人として、心よりお祝いを申し上げます。また、ご来賓の方々におかれましては、本学新入生の晴れの日にご列席いただき、誠にありがとうございます。
釧路公立大学は、今から37年前の1988年(昭和63年)に、「地方創生」の一環としてひがし北海道=道東で誕生しました。釧路管内の全市町村が結成した事務組合を中心に、住民の理解と協力を得ながら生まれたことから、住民自治とコミュニティを大事にする大学であるといえるでしょう。フロンティアスピリット溢れる北海道らしい大学の一つです。
その本学も2年前には公立大学法人となり、新時代の要請に応えるべく改革に取り組もうとしています。最近は「産官学プラス金農労言(産業・行政・教育機関・金融・農業・労働・言論/マスコミ)」が連携して、さまざまな課題に取り組む動きが見られています。また、東京や大阪など都市部の大学と地方の国公立大学や私立大学との連携なども全国各地で見られるようになりました。一極集中の半面で、都市が地方の潜在力に関心を持ち始める時代がやってきているのかも知れません。若い皆さんは、新時代の変化を敏感にとらえ、それに対応できる能力を身につけるべく、勉学と自己研鑽に努めて欲しいです。
さてこの大学が立地する釧路については、地元民をのぞけば、まだ来たばかりでよく分からない、という学生も少なくないと思います。「霧」で有名な街ですので、少し暗そうなイメージを持っていた方もいるでしょう。実を言えば、私もその一人でしたが、冬の凍てつく道路の運転をのぞけば、春夏秋冬、なんとも暮らしやすい街です。春は「芽吹く」という言葉がぴったりくる湿原特有の景色に出会えるし、夏はその冷涼な気候が避暑に最適の環境を与えてくれます。私の教え子のOBは大阪出身ですが、今でも夏になると「釧路に戻りたい」と連絡をくれます。地元の若手クリエーターが作った「笑えるほど涼しい釧路」というキャッチフレーズが評判になりましたが、全国各地からの長期滞在者が増えるほど「涼しい」のです。新入生も皆さんの多くは、もうすぐそれを体験することができます。地元の学生さんたちには、それが町の魅力だということを再認識して下さい。釧路には「何にもない」ではなく、隠れた魅力がいくつもあるのです。夏の魅力だけでなく、冬期には「連日晴れ」の天気が「心の晴れ=明るさ」を提供してくれます。
この自然環境は、皆さんが釧路公立大学で経済学や経営学を学ぶ出発点を提供しています。今日は「気候、天気」の話を取り上げましたが、自然環境は、様々な要素から成り立っています。山、川、海、湖などがそうだし、植物、生物、菌類、微生物などの生き物(生物多様性)、森林、草原、湿原、サンゴ礁などのエコシステム(生態系)、鉱産資源や土壌、そして地球を含む宇宙空間がそうです。皆さんが、高校までに地球環境やSDGsの話をするときに扱ったすべての分野が、この大学で学ぶ事柄と直接的に、間接的につながっています。
少し前の釧路とその周辺の歴史を振り返ると、この地域の経済は、水産業、酪農、石炭、木材、製紙業などで成長してきました。最近ではひがし北海道全体が観光に力を入れ始めています。これら「天賦の恵」とその加工物は、釧路の産業を、そこに生きる人々の生活を支えてきたし、それを基礎に政治、行政、教育、文化が発展してきました。さきほどあげた「涼しい釧路」も、一昔前まではまさか人口対策や観光業につながるとは思ってもいなかったわけですが、今では政策の一部となりつつあります。
さてこの釧路の話を、皆さんの出身地の経済と重ね合わせてみましょう。同じ北海道でも、道北、道央、道南、道東でだいぶ違いがあります。北海道外から来られた学生たち(ちなみに今年は入学者の40.1%)の出身地は、北は青森から南は沖縄からと非常に多様ですので、地域差は多岐に及んでいます。もちろん共通する自然条件もたくさんありますが、その「差」や「違い」を意識して、自分の出身地の経済について勉強し、そこで「地方創生」や「地域活性化」について考えてみるのもいいかも知れません。
つぎに、新入生の皆さんが、これから学生生活を始めるにあたり、政治経済、社会の実践してもらいたいことに三点あげておきましょう。
一つ目は、「総合知」の獲得です。本学の専門領域である社会科学をより豊かなものにするためには、広い視野や多角的視点、柔軟な思考力や問題解決能力を身につけておくことが重要です。そのためには人文学や自然科学についての知識を学び、その視角から社会科学を捉える準備をすることが求められます。異なる専門領域を横断的に学ぶと言い換えることができます。1~2年次には、本学での学びの基礎力を得るために必要な科目が用意されていますので、多角的・複合的に学び、考え、行動する自分を鍛えましょう。
二つ目は、日本の社会や文化のみならず、外国語や異文化への理解を通じてコミュニケーションの幅を広げることを勧めます。「他者を知る」ということは、自分を高めていくための通過点です。コロナ禍によって内向きになった心を開放し、家庭から地域社会へ、さらに国内から海外へと視野を広げることで、自分のなかに複眼的で多面的なものの見方や考え方を育てましょう。
三つ目は、「理論と実践の統一」です。理論と実際の行動から得られた知識を行ったり来たりしながら相互に検証し、自分なりの答えを見つけるための方法論です。両者を結びつける紐帯は、好奇心と忍耐、そして行動力、人と人とのつながりです。実際には、どちらかに偏りがちになることが常ですが、立ち返るべき原点として忘れずにいることが肝心です。
最後に、さっそく今日から取り組んでいただきたいことが一つ。初年次ゼミナール、部活、サークルなど、きっかけや分野を問わず、良き仲間を作って下さい。大学時代の仲間は、一生の友になることもあります。
以上、こちらからの注文ばかりでしたが、皆さんが入学時に抱いている期待、目標が何よりも大事なものです。それを失うことなく、4年間を全うしていただきたいと願っています。皆さんの大学生活が実り多きものになることを祈念して、告辞といたします。
令和7年4月7日
釧路公立大学 学長 白川 欽哉