令和8年度入学式 学長告辞
ページ内目次
令和8年度入学式 学長告辞
令和8年4月6日、本学アトリウムを会場に「令和8年度釧路公立大学入学式」が執り行われました。
以下、本学学長の告辞文を掲載いたします。
----------------------------------------------------------------------------------
春の気配がようやく北の大地にも訪れ、私たちが親しみを込めて「道東」あるいは「ひがし北海道」と呼ぶこの地に、希望に満ちた新入生の皆さんを迎えることができました。本日、ここに釧路公立大学に入学された皆さんに、教職員を代表して心よりお祝い申し上げます。また、これまで皆さんの成長を慈しみ、支えてこられたご家族や関係者の皆様にも、深く敬意を表しますとともに、心よりお慶び申し上げます。さらに、ご多忙のなかご列席賜りましたご来賓の皆様に、厚く御礼申し上げます。
本学は、今から三十八年前の一九八八年(昭和六三年)に誕生しました。振り返れば、日本中が華やかな「バブル経済」に沸き立ち、誰もが右肩上がりの未来を信じていた時代です。しかし、その直後に訪れたのはバブル崩壊、そして「失われた三十年」と呼ばれる日本経済の長い停滞期でした。そして現在、日本中の多くの地方自治体と同様に——おそらく新入生の皆さんの出身地の多くがそうであるように——、ここ釧路もまた人口減少という大きな転換の中にあります。
しかし、私はこうした困難な時代だからこそ、皆さんと一緒に考えたい問いがあります。それは「地域にとって本当に必要な知恵とは何か」、そして「持続可能な社会をいかにして築くべきか」という問いです。本学は経済・経営系の大学ですから、この地に根ざした具体的な経済活動を例に引いてお話ししましょう。
かつて「北洋漁業の拠点」として栄えた釧路の水産業は、いま、最新のデジタル技術や発酵技術を活用した「高付加価値型産業」へと劇的な進化を遂げています。具体的には、AIやロボット技術を活用した魚体の高度な精密加工や、魚を素材とする新たな機能性発酵食品の開発などが進められています。これは単に「新鮮な魚を大量に売る」というかつての薄利多売モデルから、地場の技術と知恵によって付加価値を最大化して販売する、というパラダイムシフト(考え方の転換)を意味しています。また、国際的な衛生基準を満たす加工工場の整備により、「安心・安全なプレミアム・シーフード」を世界市場へ直接輸出する試みも始まっています。
このような変化は水産業に限りません。第一次産業を基幹とする地方経済においては、素材を素材のまま売るのではなく、そこにどのような「新しい価値」を創り出し、社会に提案できるかという視点が、これからの経済を支える鍵となります。これは、ここ釧路だけでなく、多くの新入生の皆さんの出身地にもあてはまる事柄のはずです。
観光の面でも、釧路は埋もれていた価値を再発見し、世界へと発信しています。世界三大夕日に数えられる幣舞橋の美しい景観、ラムサール条約に登録された広大な釧路湿原。そこにはタンチョウやオオワシ、キタサンショウウオといった希少な生命が息づいています。 近年、再生可能エネルギーと景観保護のバランス、いわゆる太陽光パネル設置を巡る議論で、釧路は注目されていますが、こうした課題こそが皆さんの学びの対象です。「釧路ブルー」と称される澄み渡る冬の空や、冷涼で快適な夏。こうした多種多様な資源に恵まれたこの地は、単なる知識の習得場所ではなく、地球環境の保全と地域経済の営みを同時に、かつリアルタイムで学べる「生きたキャンパス」なのです。
本学は、このひがし北海道での学びを、十勝、オホーツク、根室といった地域全体、ひいては北海道全域へと還元していく役割を担っています。また、その貢献は道内にとどまりません。本学の全入学者の約半数は、南は九州・沖縄から東北まで、全国各地から志を持って集まった学生たちです。異なる風土、異なる文化的背景を持つ若者が、この釧路という一点に集い、共に学び、遊び、時に悩み、喜怒哀楽を共にする。この「多様な価値観の混ざり合い」こそが、本学が誇るべき最高の教育環境にほかなりません。
さて、本学が公立大学法人へと移行し、改革を推し進めて三年目に入りました。現在、社会では産業、金融、行政、教育、マスコミといったセクターの壁を超えた連携が主流となっています。大都市一極集中が進む一方で、地方の可能性や持続可能な生き方に惹かれる人々、あるいはUターンを選択する人々も増えています。新入生の皆さんには、こうした時代の変化を肌で感じ、従来の常識に囚われずに対応できる力を養ってほしいと願っています。
最後に、これから始まる四年間を実りあるものにするために、三つのアドバイスをおくります。
第一は、「広く、そして深く学ぶ」ということです。大学での学びは、正解のある問いに答える受験勉強とは本質的に異なります。専門領域である社会科学を深めるためには、その土台として文学、歴史、哲学、自然科学といった幅広い教養に触れることが不可欠です。一見、専門とは無関係に見える知識が、複雑な問題を読み解くための強力なヒントになることがあります。まずは広く多様な知に触れ、その後は好奇心の赴くままに深く掘り下げることを試みてください。
第二は、「多様な価値観に触れ、行動する」ということです。自分とは異なる価値観を持つ人との対話や共同行動は、時に摩擦を生みます。しかし、その摩擦こそが「他者の立場になって考え直す」ための最良の訓練になります。本学の強みである少人数教育の場や、サークル活動、アルバイトなどで、積極的に他者と関わってください。
第三は、「自ら問いを立てる」ということです。現代社会には、先人たちが作り上げてきた組織や規範、ルールがあります。それらを学ぶことは社会人となるための第一歩ですが、より大切なのは、既存の常識を疑ってみる「批判的精神」です。世の中が進化してきたのは、先人たちがこの精神を持ち、より善い生き方を求めて試行錯誤を繰り返してきたからです。失敗を恐れず、自分の頭で考え、自分の言葉で語ることを忘れないでください。
最後にもう一つ、今日から取り組んでほしいことがあります。それは、一生の宝物になるような「良き仲間」を作ることです。ゼミや部活動、どのようなきっかけでも構いません。大学時代に分かち合った時間は、卒業してからも皆さんの人生を支える確かな糧となるはずです。
皆さんが今抱いている期待や目標こそが、何よりも尊いものです。その気持ちを大切に、この「ひがし北海道」の地で、実り多き四年間を過ごされることを願っています。
皆さんのこれからの大学生活が、光り輝く素晴らしいものとなることを祈念いたしまして、私の告辞といたします。