釧路公立大学

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令和2年度釧路公立大学学位記授与式 学長告示

令和2年度釧路公立大学学位記授与式 学長告示

学長告示の様子
学位記授与式の様子
2021年(令和3年)3月23日、本学体育館を会場に「令和2年度釧路公立大学学位記授与式」が執り行われました。以下、学長の告示文を掲載いたします。
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 卒業、おめでとうございます。釧路公立大学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。また、今日はコロナ渦のためやむなく、ご出席頂いていませんが、この日に至るまで長い年月にわたって、皆さんの成長を支えてこられた、ご家族と関係者の皆様にも、心から敬意と感謝の意を表します。

 皆さんの4年間は、アメリカのトランプ大統領の4年間と重なります。グローバリゼーションの果てに行き着いた、トランプ大統領の自国第一主義が、世界に拡散した4年間でした。トランプ政権は、地球温暖化に世界が協調して取り組むことを決めた、2015年のパリ協定からの離脱で始まりました。温暖化の影響は、海水面の上昇による国土の沈没に直面している国において最も深刻ですが、日本における、自然災害の頻発と大規模化も、温暖化の影響と言われています。環境において世界は、密接に繋がっています。残念なことに、トランプ大統領の最後の1年は、新型コロナウィルスのパンディミックに襲われ、混乱した1年となりました。まだ、収束が見込めませんが、この混乱の中でトランプ氏は退場し、皆さんの卒業の年は、米中関係を基軸に、新たな協調体制を再構築する模索が始まった年になりました。
 グローバリゼーションの中で、民主主義の衰退が顕在化した4年間でもありました。民主主義の先進地であったはずのアメリカは、国内が、党派分かれて互いに議論をすることができないような国であることを、改めて、世界に知らしめました。相手の意見に耳を傾け、自己の意見を反省してみることが、民主主義の要諦であるとすれば、そうした気風はとうの昔に、失われていたことが明らかになったのです。これほどまでになった背景の一つに、ソーシャル・メディアの発達と、新聞をはじめとしたマスコミの衰退が指摘されていますが、フェイクニュースという言葉の蔓延が、この衰退を象徴しています。
 このように、民主主義の衰退が顕在化した国もあれば、民主主義そのものがまだ、制度的に確立していないか、折角勝ち取ったものをまた、奪われようとしている国もあります。2019年には、香港で一国二制度の堅持を求めて学生らの大規模デモが続きました。しかし、この3月に、選挙制度が改正されて、返還前の体制に戻った感があります。2020年には、タイのバンコクで、軍政からの転換と、王室の制度改革を求める運動が、学生を中心に行われています。また、今年に入って、ミャンマーでは軍部によるクーデターが発生し、連日デモが続いています。市民のデモを少数民族の武装勢力が警護するという異様な光景は、問題の難しさを示しています。先進国からの工場進出で、豊になった国民は、この事態にどのように対処することになるのでしょうか。しかし、東アジアの政治変動の根底には、グローバリゼーションによる国民所得の向上というプラスの面とソーシャル・メディアの発達があることは見逃すことはできません。
 このようにグローバリゼーションには、世界的な富の再分配の側面がありますが、それは、先進国の内でも、富の集中、都市と地方の格差の拡大、地方の衰退となって現れています。日本では、グローバリゼーションと並行するアメリカナイゼーションが、社会の変容を迫っている面があります。働き方改革はその典型ですが、それがこの30年間に進んだ雇用の劣化の行き着いた果てなのか、それとも、劣化を食い止める改良策なのか、意見は分かれる所です。労働の場でも、地域社会の場でも、古いと批判され続けている共同性が弛緩あるいは崩壊し、それに変わるべくものを求めて、模索が続いています。
 どんな社会を目指すべきなのか、改革するとしても、日本の強みは何なのか、その強みを維持しつつ、変えていくことはできないのか、そのための政策は整合的なのか、我々は、難しい課題に直面し続けています。皆さんは、どのようにこの4年間の出来事を受け止め、大学生活から旅立とうとしているのでしょうか。

 さて、皆さんの旅立ちにあたり、私の乏しい人生経験から一言申し上げたいと思います。私が、それなりに、この年までやってこられたのは、自分を変えないという姿勢だったのではないかと思い返しています。というのも、最近、フランスの哲学者、アランの著作を読み始めて、そこで、スピノザが次のように言っているのを知ったからです。その言葉というのは、「美徳の唯一のかけがえのない基礎は、自分のあり方を変えないようにする努力である」、というものです。これに続けて、アランは、自分で自分を変え、そして他人の性質を身にまとうようなことをしてはいけない。外的事物に譲歩しないで、自分自身になりきることだとも言っています。ただ、アランとスピノザの美徳というのは、自らの固有の本性に従って活動する能力のことですから、確かに、自分のあり方を変えてはいけない訳です。しかし、何も自分は変化しないのかと言われれば、そうではなく、自分自身になりきるという形で変化する、ということなのでしょう。
 スピノザは、自らの固有の本性と言っていますが、それは、萌芽としてあるだけで、事後的に発現するものなのかもしれません。自分を見つけることは難しいことです。何も考えずに生きるのが簡単だからです。しかし、人生の中で何度か、必ず立ち止まって考えなければならない時があるでしょう。自分のあり方が何処にあるのか分からないと思われるかもしれません。これを探す近道はないと思いますが、時には無駄と思われるようなことも経験し、自分で判断すること、自分で学びとることが、自らを作っていく、すなわち、固有の本性が立ち現れることになるのだと思います。そうして、結果として、自己が貫かれたものは、外からみても美しい、清々しいものになるのではないかと思うのです。
 皆さんの、清々しい人生がこれから始まることを祈念して、告辞といたします。


2021年(令和3年)3月23日
釧路公立大学 学長 小路 行彦

最終更新日:2021年03月23日